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昔の選手は本当に質より量か?

更新日:2022年2月28日

 こんにちは、ウェルビーイング池上です。


 今回は昔の選手は質より量だったのかというテーマのブログ記事です。最近は昔の選手は質より量で、最近の選手は量より質のトレーニングになって、タイムが上がってきたということが言われますが、本当にそうでしょうか?確かにそういったイメージがあるのは事実ですが、本当にそうだったのか、詳細に見ていきたいと思います。

 まず、第一に私の印象から書かせて頂きますと、実際にどうであったかということよりもマスメディアの姿勢が大きく影響しているような気もしています。というのは、私が高校生の頃は、マラソン選手に関するインタビュー記事などに40km走を何本やったかとか、月間何km走ったかといったような記事が多かったんです。そうすると、その話だけが一人歩きしてしまい、読み手はそこがメインのような印象を受けてしまうのです。

 私自身はハーフマラソンでそれまでの自己ベストを2分半近く更新し、63分9秒を出した年は、夏場には月間1200kmを走り込み、40km走こそあんまりやった記憶がありませんが、週に一回は20マイル走を取り入れていました。レースの一週間前にも20マイル走をしていたと思います。そこだけを取り上げて、ここに書いてみると、練習量をとにかく増やしたから、タイムが伸びたという印象を受けるかもしれません。しかしながら、月間走行距離1200kmも、週に一回の20マイル走もメインのトレーニングではありませんでした。当時のメインのトレーニングは1200m8本を400mつなぎでやるトレーニング、400m10本を400mつなぎでやるトレーニング、3000m4本を400mつなぎでやるようなトレーニング、12000mを速いペースで押していくトレーニング、そしてトラックレースでした。週に一回の20マイル走では質は求めずに、3:45/kくらいのゆっくりとしたペースで、将来マラソンをやるための脚作り、気分転換、有酸素能力の向上などを目的としたトレーニングでした。

私がここで言いたいのは、私のトレーニングの話ではなく、このように様々なトレーニングに取り組み、本人は違うところに重点を置いていたとしても、マスメディアが取り上げると、そこだけが人々の印象に残ってしまうということです。実は昔の選手は質より量で、今の選手は量より質で速くなっているというのは、そういった一種のステレオタイプではないかと思います。

宗茂のマラソントレーニング

 論より証拠ということで、宗茂さん著書の『マラソンの心』と瀬古利彦さん著書の『マラソンの真髄』からいくつか引用してみましょう。そこには多くの人のイメージとは違うことが書いてあります。

「私たちがマラソンを始めた1970年代は、今で言う『マラソン練習』について理解している人はいなかったと思います。

 君原健二さんあたりのクラスであれば、自分なりの練習法を持っていたとは思いますが、陸上界のほとんどの選手や指導者はマラソンを分かっていなかった。

 マラソン独自の練習法を考案するという発想がありませんでした。せいぜい30キロ程度をこなすくらいで、40キロを走るのはぶっつけ本番の試合だけ、それが当たり前の時代です。

 ですから、練習で40キロを走るという発想がない。今ならマラソンを走るには40~50キロといった長距離走に取り組まなくてはいけないというのは常識です。

 ところが当時は、40キロ走は常識外れのハードな練習だと見なされていました。もちろん、取り組み方についてのノウハウも全くなかった。ですから、マラソンに対しては、誰もが距離に対する不安を持っていました。練習で走ってもいない40キロという距離をいきなり走るのですから。(宗茂著『マラソンの心』P50)」

 どうでしょうか?実は宗茂さんがマラソンを始めた頃は、まだ40キロ走を行うという発想がなく、30キロ走ですら、一回程度です。今は箱根駅伝を目指す学生でも、もっと走ります。これはほとんどの人のイメージに反するのではないでしょうか?更に言えば、今は高校野球の投手の球数制限を筆頭に、体を酷使すると選手寿命を短くすると言われていますが、これも程度問題だと思います。以下同書からの引用です。

「当時はマラソンを走ると選手寿命を縮めると言われていました。実際、選手寿命も短かった。18歳くらいで企業の陸上部に入り、28歳くらいで引退というのが普通です。ほぼ9割の選手がこのパターンでした。マラソンを走ると選手寿命を縮める。これは事実でした。

 事実でしたが、それはマラソンを知らなかった、あるいは『マラソン練習』を知らなかったことが原因です。

 今考えると、28歳ぐらいからが一番面白いのです。心身ともに充実し、これから結果が残せる年齢だからです。ところが、当時は皆28歳ぐらいで引退していた。では、なぜそうなってしまうのか。

 まず、抵抗力がありませんでした。マラソンを走るだけの肉体的な抵抗力がなかった。

42.195キロを走るという肉体的負担に体が耐えられなかったということです。(宗茂著『マラソンの心』P51)」

 これは私の実感とも一致してます。確かに月間1000キロを超えてくると、どうしてもジャンクマイレージが増えてしまい、トレーニング効果がそんなにないにも関わらず、疲労の回復が妨げられてしまう感じがします。ですが、練習量が少なければ少ないで、逆に疲れてしまうんです。理屈と合わないじゃないかと思われるかもしれませんが、それは事実なんです。もう一つ言えば、故障のリスクも増えてしまいます。ある程度は走り込んだ方が、疲れません。体が練習に抵抗する抵抗力がついてくるんです。例えばですが、5000mを14分で走る選手にとっては40kmを3:15/kで走ることは、本来それほど大変なことではないはずです。でも、例えば高校生で5000mを14分で走る選手に40キロをそのペースでやらせれば、潰れてしまうでしょう。マラソンに出るどころではありません。そこで疲れ切ってしまって、良い練習ができません。それは何故か?40キロという距離に対して、抵抗力がないからです。

 私の高校時代の恩師や現在のコーチディーター・ホーゲンも私からすれば、40キロという距離に対して、過大な抵抗を持っているような気がします。40キロという距離そのものが、体に大きな負荷をかける、そんなことをするとスピード練習ができなくなると言われますが、私の経験から言って、そんなことはありません。人生で一番良いショートインターバルができたのは、週に一回40キロ走をやっていた時です。確かに