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移行期の練習

 気温35度、天気予報によると今日が最後の猛暑日になりそうな中、原稿を書いております。


 あれだけ早く秋にならないかなと思っていたのもつかの間、今日が最後の猛暑日かと思うと妙に寂しくなり、慌ててクーラーを消して暑い中そうめんとラムネを堪能しています。


 妻が買ってくれた9キロのそうめんは、いくらなんでもそうめんばかり食べていれば体力が持たないだろうと出来るだけ手を付けずにいたのですが、気づいたら大量に残ってしまい、こんなことなら夏の間毎日でもそうめんを楽しめば良かったと思っています。


 さて、皆様のお住いの地域の気候はいかがでしょうか?


 ありがたいことに、東北や北海道はもちろんのこと、ドイツやアメリカミシガンからの読者様もいてくださいますので、お住まいの地域によってはすでに朝晩は肌寒くなっている地域もあるかもしれませんが、読者諸兄の皆様の大半のお住まいの地域はやっと朝晩涼しく気持ちの良い気候になってきているのではないでしょうか?


 いつも不思議に思うのは、気温が高くてもちゃんと8月の終わりになると、秋風が感じられ、秋の虫たちが鳴きだすようになることです。そもそも秋風とは一体何なのでしょうか?


 説明せよと言われても不可能に近いですが、それでも8月の終わりになると明らかに風の質が変わります。そして、秋風や秋の虫が鳴きだす頃になると少しずつ練習内容を変えていくことが、秋から冬にかけてのロードレースやマラソンで結果を出すコツになります。


 そんな訳で、今回はこの時期の移行期の練習について書かせて頂きたいと思います。初めに書かせて頂きますと、先日開催された北海道マラソンに本命レースとして出場された方はまた別のアプローチが必要となりますので、今回は夏場に基礎練習に取り組み、秋から冬のロードレースに向けて走力を向上させていきたいという方の為の記事です。


移行期とは何か?

 そもそもの話ですが、移行期とは何でしょうか?


 言葉から「何かから何かへと移行していく時期である」という事はお分かりいただけると思います。今回はどこから説明するか迷いますが、初心者向けの解説をさせて頂きますと、長距離走、マラソンにおいては通常は自分自身の能力を最大限に開発するために期分けというものを行います。


 期分けというのは、4週間から6週間くらいの期間でそれぞれを区切り、それぞれの期間で重点を置くものを変えていくことを指します。この期分けというのは、ピーキングの本質的な部分になります。


 ピーキングとは調整のことである、つまり重要なレースの1週間とか2週間くらい前から練習の負荷を落とし、疲労を抜いていく作業のことであると誤解されることが多いのですが、調整とピーキングというのは全くの別の概念です。


 ピーキングというのは通常は約3か月間から半年にかけて、戦略的に練習を積み重ね、目標とするレースに向けて最高の状態を作り上げていく作業のことです。


 長距離走というのはレベルが上がれば上がるほど、あるいは自分の限界に近付けば近づくほど、自己ベストというのはいつ走っても出せるようなものではなく、また行き当たりばったりで走っていれば偶然出るようなものでもなく、狙いに狙って戦略的に練習をして初めて出るものです。少なくとも私の場合はそうでしたし、私の周りの多くの選手もそうでした。


 そんな訳で、そうやって期分けというものをするのですが、この期分けをどのように行うかは各チーム、各指導者、各選手によって異なります。例えばですが、私が洛南高校陸上競技部に在籍していたころの高校駅伝強豪校の一般的な期分けは、7月、8月が鍛錬期、9月、10月が移行期、11月、12月が試合期、その中でも12月の終わりの全国高校駅伝に向けてピークを合わせていくといった流れです。


 また、市民ランナーの方に最も読まれている書籍の一つ『リディア―ドのランニングバイブル』では、マラソンコンディショニング期、ヒルトレーニング期、レペティショントレーニング期、コーディネーション期、レース期という風に分けていきます。


 また世界で最も実績のあるロードレース、マラソン指導者の一人レナト・カノーヴァ氏は休養期、一般的基礎期、特異的基礎期、特異期、レース期の4つに分けます。


 このように分類の仕方は人それぞれです。人それぞれではありますが、共通点はあります。それは、最終的に自分がやりたいことから逆算をして、先ずは土台作りがあり、そしてその土台と最終的に自分がやりたいことを繋ぐ移行期が存在するという事です。


 高校駅伝強豪校の場合ははっきりと移行期という言葉を使うのが一般的です。リディア―ドシステムの場合はどこが移行期になっているのかは、やや曖昧ですが、最終的にレース期があり、その手前にレースで結果を出すためのコーディネーション期があり、そして先ずは巨大な有酸素土台を作って、次に純粋スピードを養成し、と考えていくとレペティショントレーニング期からコーディネーション期にかけてが移行期に該当します。


 コーチカノーヴァの場合は、一般的基礎期が移行期に該当します。この期間は普通にインターバルトレーニングもテンポ走も入れていきます。そして、コーチカノーヴァ曰はく「この一般的基礎期が終わるとレースに出られるだけ体が仕上がっていると多くの選手が勘違いする。でも、実際にはレースに出る準備が出来たのではなく、特異的な練習をやるための準備が出来たのだ」とのことです。


 この言葉からも本当に基礎的な練習から、最終的に自分がやりたい練習をやる期間との間の架け橋になる存在だという事がお分かりいただけると思います。


 あなたがどのようなトレーニングシステムを用いていたとしても、この原則は変わりません。基礎をしっかりと作って大きな土台を作り、最終的に自分がやりたい練習との間に架け橋の役割を果たすもの、これこそが移行期です。


何故移行期を作った方が良い?

 何故移行期を作った方が良いのかということですが、これは単純な理屈です。人間の体は徐々に徐々に刺激を変化していった方が適応しやすいからです。一番単純なのは季節の変化でしょう。


 日本のように四季のある国に住んでいれば、普通は寒さや暑さが徐々に変わっていくので、真夏になるころには夏の体になっており、真冬になるころには冬の体になっています。ですから、季節の変わり目にはこの時期でこんなに暑かったら(寒かったら)、真夏は(真冬は)死んでしまうんじゃないかと思うのですが、真夏(真冬)になったら、意外となんとかなるものです。


 もちろん、秋のように過ごしやすいことはありませんが、意外となんとかなります。ところが、外国に行ったり、高地に登ったりしていきなり気候が変わると体がこたえます。そういう意味で言えば、高地での練習においても徐々に体を慣らしていかないといきなり標高2000mを超える土地に行って、日本と同じように練習をすると大きな不具合が生じます。


 トレーニングもそれと同じで徐々に徐々に刺激の種類を変えていったり、刺激の程度を強めていけば、適応できるものも、いきなりそういった負荷をかけると体が耐えられないのです。


 だからこそ、徐々に徐々に移行してくのです。


 実例を挙げますと、私がハーフマラソンで63分09秒を出した時には、最もレースに近い練習では5キロ3本を1000mつなぎで15分ちょうどで行いました。こういった練習は本当に状態が上がっているからこそ出来るものですし、その一年前、半年前いや2か月前ですら到底できなかった練習です。


 最終的に結果を出すにはこういった練習が有効だと思います。しかし、こういった練習はかなり状態が上がっていないと出来ませんし、更に一度ピークを持ってきたら後は下がるだけです。だから、年がら年中こういった練習が出来る訳ではなく、その時の自分の土台の大きさから考えると一定期間そういった状態を維持したらあとは下降していきます。


 ピーキングというのは登山に似ていると思います。


 京都には愛宕山という標高約900mの山がありますが、愛宕山程度であれば、準備無しでも一日で登って降りることがあります。そして、900mの丘陵な山を登って下るとかなりの達成感を味わうことも出来ます。


 しかしながら、もっと標高が高くなって7000mを超えてくると、事前の準備が必要になってきます。ベースキャンプというものを張って、体を慣らしていき、そして慎重に慎重に準備をしても、頂上にアタックできるのは3日間程度しかないそうです。


 それだけ時間もお金も労力もかけて周到に準備をしたとしてもその3日間の間に天候不良が続けば諦めていったん下山してまた一から準備をしないと命の危険があると聞いたことがあります。


 タイムが上がれは上がるほど、あるいは自分の限界に近付けば近づくほど、これと同じことが起こります。中学生の1年生、2年生くらいまでは私も一生懸命走っていた方ではありますが、それは登山を趣味にしている人が年に何回か愛宕山を一生懸命登るのと変わりがありません。


 ただ、レベルが上がってくると愛宕山を登るような短い準備期間では結果が出せず、また慎重に準備をして頂上アタックを試みても故障や調整ミスが起こるとまた一から準備をしないと結果が出せないという種目です。


 そして、移行期とはベースキャンプに該当します。


 ベースキャンプというのは、私も詳しくは知りませんが、例えば8000m級の山に挑戦するとなると4000mに一週間、6000mに一週間くらい滞在して体を徐々に慣らしていくことだそうです。そして、最終的にやりたいことは登頂であり、その為の直接的なアタック、つまり頂上に向かって歩を進めるという過程があります。


 移行期というのは頂上を目指している、つまりピーキングの一過程ではありますが、まさに頂上(ピーク)に向かって歩を進めているというよりは、頂上アタックの為の準備期間に当たります。


 しかしながら、すでに必要な最低限の準備は終わっている段階ですから、基礎構築期とも違うというそういった段階です。


具体的な移行期の要素は?

 具体的に移行において実施する内容は以下の通りですが、そもそも拙著『夏場のトレーニング論』なども参照にしながら夏場に基礎練習にしっかりと取り組まれていたという事は前提になっています。



1質の高い練習の量を増やしていく

 夏場はレペティショントレーニングやショートインターバル、あるいはやっても合計距離が5000mまでのインターバルトレーニングが中心になっていたと思いますが、9月くらいから徐々にその距離や疾走区間の合計距離を長くしていきます。


 例えばですが、400mのショートインターバルやレペティショントレーニングしかやっていなかったのを徐々に2分速く走って1分ゆっくり走ってのファルトレクや3分速く走って1分30秒ゆっくりのファルトレクを導入して、その距離を伸ばしていきます。


 慎重に量を増やしていって最終的には疾走区間の合計時間が30分から40分になるようにします。また、移行の練習として登り坂の1キロを使うこともあります。


 この段階ですでにインターバルを行っても構いませんが、移行期はより余裕を持たして、とりあえず1回目、2回目はタイムを気にせずにとりあえずやってみて、基準を作ると良いと思います。


2持久走の強度のペースを上げていく

 夏場もペースさえ落とせば持久走は問題なくこなせますが、レースで結果を出すとなるとただ走るだけではなく、ある程度はレースペースに近いペースでも走りたいところです。9月くらいから徐々にレースに近い刺激として持久走のペースを上げていくのも大切な練習だと私は考えています。


 これも少しずつ少しずつなので、例えばですが15キロの中強度走だったのを中強度から高強度走にするとか、あるいは10キロの高強度走から始めて少しずつ距離を伸ばしていくとかやり方は複数考えられますが、少しずつ刺激をレースに近づけていくのがミソになります。


3距離走のペースを上げる(距離を伸ばす)

 マラソンの選手限定にはなりますが、夏場は距離走に質を求めるのは自殺行為ですし、そもそも夏場は30キロ以上の距離は走らないという方もいらっしゃると思います。そういう場合は、最終的に自分がどういうマラソントレーニングをやりたいのか考え、少しずつ距離を伸ばしていったり、タイムを上げていくと良いと思います。


 これもどこまでの距離をどこまでのペースでやりたいのかは、本人がどういったマラソントレーニングを思い描いているかによるでしょう。ただ、ポイントはいきなり自分の欲望に従うのではなく、自分の欲望にブレーキをかけながら戦略的に少しずつ負荷を上げていくことです。


4疲労を抜いていく

 ここでの疲労を抜いていくというのは、練習の負荷を落としレースに向けて疲労を抜いていくということではありません。これは日本の夏特有の事情でもありますが、やはり日本の夏は苛烈です。


 ミャンマーやインドの方はもっと暑さが厳しいとも聞きますが、少なくともドイツやケニア、ニュージーランドの夏に比べるとダントツで暑いです。夏の暑さへの耐性は人によっても違いますが、一般的には食欲が落ちたり、寝つきが悪くなるものだと思います。


 気温が高いと眠れない、汗をたくさんかくと食欲が落ちる、こういった生理現象というのは時代が進歩しても変えられないものです。これからの季節は気温も下がり、秋の味覚が待ち受けており、ご飯も美味しく眠りやすい季節です。


 たくさん食べて、しっかりと寝て、体力をつけるには絶好の季節ですので、是非しっかり食べて、しっかり寝るということを意識してください。


 また夏場に体重が1キロから2キロ程度落ちてしまって、減量に成功したとほくそ笑んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、私の経験上、夏場に落ちた体重は戻した方が良いです。その体重の減少がトレーニングによって絞られて落ちた分なら良いのですが、大抵は食欲の減退によるものや慢性的な脱水症状によるものです。


 しっかりと食べて体重を戻した方が体力も戻って良いと思います。


 ただ、女性の場合は平気で5キロ、10キロと変わる人がいますので、こういった増減に関しては私の理解の範疇を超えております。やはり、5キロ、10キロと増えると如実に走れなくなる選手が全員ですので、これはやり過ぎでしょう。


 さて、そんな移行期の練習、今回も気づけば6000字近くに達し、無料ブログとしては結構な分量となってしまいました。本当はもっと詳しく見ていきたい分野となりますので、9月10日の土曜日、午後6時半より1時間半にわたりウェビナーにて解説させて頂きたいと思います。


 本ウェビナーで解説させて頂く内容は以下の通りです。


・具体的な質の高い練習の増やし方

・具体的な持久走の強度の上げ方

・具体的な距離走の距離の伸ばし方(増やし方)

・その他トレーニングにおける留意点(例:総走行距離はどうするのか?など

・具体的な生活上の留意点



 今回もお申込み頂いた方には、ウェビナーを録画し、後日復習用動画をお送りさせて頂きます。従って、途中退室、途中参加可とします。また、食事時でもありますので、ご飯を食べながら画面オフ、ミュートオフでのご参加も可と致します。


 参加費はたった2000円で克己会員様とランナーズユニバーシティの会員様の参加費は無料とさせて頂きます。


 お申し込みはこちらをクリックして、お名前と本文に「ウェビナー希望」とご入力いただくだけで完了します。その後担当者からお支払いのご案内と、当日のウェビナー情報URLをお送りいたします。お支払方法はクレジットカード、ペイパル、銀行振り込みの三種類よりお選びいただけます。それではたくさんのご参加お待ちしております。

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ランニング書籍

講師紹介
​ウェルビーイング株式会社代表取締役
池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

​ウェルビーイング株式会社副社長
らんラボ!代表
深澤 哲也

IMG_5423.JPG

経歴

中学 京都市立音羽中学校

高校 洛南高校

↓(競技引退)

大学 立命館大学(陸上はせず)

​↓

大学卒業後

一般企業に勤め、社内のランニング同好会に所属して年に数回リレーマラソンや駅伝を走るも、継続的なトレーニングはほとんどせず。

2020年、ウェルビーイング株式会社の設立をきっかけに約8年ぶりに市民ランナーとして走り始る。

感覚だけで走っていた競技者時代から一変、市民ランナーになってから学んだウェルビーイングのコンテンツでは、理論を先に理解してから体で実践する、というやり方を知る。始めは理解できるか不安を持ちつつも、驚くほど効率的に走力が伸びていくことを実感し、ランニングにおける理論の重要性を痛感。

現在は市民ランナーのランニングにおける目標達成、お悩み解決のための情報発信や、ジュニアコーチングで中学生ランナーも指導し、教え子は2年生で滋賀県の中学チャンピオンとなり、3年生では800mで全国大会にも出場。

 

実績

京都府高校駅伝区間賞

全日本琵琶湖クロカン8位入賞

高槻シティハーフマラソン

5kmの部優勝 など

~自己ベスト~

3,000m 8:42(2012)
5,000m 14:57(2012)
10,000m 32:24(2023)
ハーフマラソン 1:08:21(2024)

​マラソン 2:32:18(2024)

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