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執筆者の写真秀志 池上

マラソンは何故年に2回がベストなのか?

更新日:2021年12月29日

こんにちは、Kimbia Athletics所属のプロランナー池上です。今回のテーマは「何故マラソンは年に2回から3回程度しか走らないのか」というテーマです。現在、国内外問わず、トップランナーのほとんどが年に2回しかマラソンを走りません。勿論、そういうルールがある訳ではありません。別に一か月に一回マラソンを走っても良い訳ですが、ほとんど全てのトップランナーが、自主的にマラソンは年に2回程度しか走っていません。これは川内優輝さんも例外ではありません。実は川内優輝さんも年に2、3回程度しかマラソンを走っていません。私がそのように書く理由は後述します。さて、それではマラソンは年に2回程度がベストである理由を説明していきたいと思います。


生理学的観点から見たマラソンが年に2回がベストの理由


1.マラソントレーニングはホルモン系と免疫系に大きな負担をかける

マラソンとスプリントやその他の瞬発系競技との最も大きな違いは、持久系スポーツはホルモン系と免疫系に大きな負担をかけることです。持久系スポーツにおける疲労感は瞬発系競技のものとは違います。瞬発系競技ではより筋肉への負担が大きく、筋肉痛になることも多いです。一方で、全身の倦怠感、食欲や性欲の減退はあまりありません。風邪をひくリスクもそれほど高くなく、一般人よりも風邪をひきにくくなるケースも多いです。


一方で、持久系スポーツの選手は筋肉痛になることは瞬発系スポーツの選手ほどは多くないです。勿論、筋肉疲労や脚の重さ、だるさのようなものは感じますが、スプリンターが感じる筋肉痛のようなはっきりとしたものではありません。一方で、持久系スポーツはハードな練習をしている時期は、食欲や性欲の減退がしばしばおこり、風邪をひく確率も高くなります。また、免疫の低下がパフォーマンスに及ぼす影響も大きくなります。


藤原新さんの全盛期、一度丸亀ハーフマラソンで69分かかったことがあります。市民ランナーのタイムと変わりません。その数日後インフルエンザが発症しました。症状が出ていなかっただけで、体内ではすでにインフルエンザウイルスが活動を始めていたのだと思います。ただ、これが100mの桐生祥秀であれば、インフルエンザウイルスが体内で活動を始めていても、自覚症状が無ければ、そこらへんのスプリンターに負けることはあり得ません。この辺りが長距離選手とスプリンターの違いです。


体の中には様々なシステム(系)が複合的に働いています。例えば、体のシステムの中で最も速く回復するのは、クレアチンリン酸系です。クレアチンリン酸系は100mのスプリントの中でも、かなりの負担がかかり、ほぼほぼ枯渇しますが、1分もすれば回復します。持久系スポーツの選手で最も消耗と回復のサイクルが早いのは、水分と電解質です。一回の練習でもそれなりに消耗しますが、数時間で回復させることが出来ます。グリコーゲンの回復には2,3日かかると言われています。


では免疫系やホルモン系はどのくらいで回復するのかということですが、約6週間かかると言われています。この6週間は完全休養にする必要はありませんが、比較的楽な練習を続ける必要があります。その後、また自分の最高の状態まで持っていくことを考えると、自然と年に2回から3回がベストということになります。


因みにですが、傾向として、日本人選手はあまりはっきりとした休養期間を設けません。この辺りが選手寿命が短い理由かもしれません。


2.そもそも1500m以上のレースは年に2回程度がベスト

そもそもの話をすると、短い距離のレースもピークを持ってこれるのは年に2回と言われています。1500m以上の距離のレースは有酸素能力が基礎中の基礎になります。基礎的な有酸素能力に加えて、神経筋を向上させます。神経筋はスピードと考えてもらっても良いと思います。この基礎的な有酸素能力に基礎的な神経筋のトレーニングを組み合わせていって、実戦的な練習を加えていき、ピーキングしていきます。実戦的な練習をすれば、調子は比較的早く上がります。しかしながら、レース結果は自分がもっている基礎能力をすべてかみ合わせたもの以上にはなりません。例えば、5000mで14分を切れないとマラソンで2時間10分を切るのは難しいです。そして、5000mのタイムが速ければ速いほど、マラソンのタイムも速くなる確率が高くなります。マラソンに特化した練習をすれば、マラソン用に体は仕上がっていきますが、自分の基礎能力以上のものにはなりません。同様に、5000mの記録会ばかりに出ていても5000mが飛躍的に速くなることはなく、基礎的な有酸素能力や神経筋の向上を地道に積み重ねた上に5000mのタイムの向上があります。


実戦的な練習をすれば早く状態は上がりますが、頭打ちになるのが早い上に本当のピークの状態をキープするのも難しいです。基礎練習の期間は長く取れれば取れるほど有利にはなります。そういった観点から、年に2回のピークを持ってくるのがベストだと考える指導者は多いです。中長距離は野球のように年間で100試合以上を戦って勝率を競う競技ではありません。普段は大したことがなくても、ピーキングを成功させて年に2回良い結果を出せれば、一流選手に慣れる世界です。そういった中で、少しずつ基礎から実戦へと移行させていく方がメリットが大きくなるわけです。


マラソンは年に2回がベストな本当の理由

長々と理論的にマラソンは年に2回がベストな理由を説明してきましたが、実は説明すればするほど、本質から離れていきます。本質は過去何十年にわたって、様々な選手や指導者が色々なアプローチを試した結果、年に2回程度ピークを持ってくるのがベストだということに気付いたということです。時代が変わっても人間は変わりません。特に人間の体は変わりません。先人たちの経験から学ばせてもらい、その上に独自性を築いていった方が効率が良いです。


川内さんも初期の頃は、レースとして出るレースと、練習として使うレースを明確に分けていました。川内さんも本当に良い記録を出すにはそれなりの準備期間が必要だということを経験的に知っていたのだと思います。コンスタントに2時間10分を切れるようになってからは、かなり頻繁にレースに出ていますが、川内さんはそもそも「ベストなレース結果」ではなく、「とにかくレースに多く出たい」、「サブ10回数」にこだわっていることを考慮に入れるべきです。私自身もマラソンを年に何本も走ること自体は無茶なことでもなんでもないと思います。ただ単に42.195キロを走るだけなら、年に2本どころか週に4本走っても大丈夫だと思います。実際私もまだ、トラックやハーフマラソンをメインでやっていた頃は、遊びで42㎞を何回か走ったことがありますが、遊びで走るだけなので特にダメージも残りませんでした。


専門バカという言葉があります。その分野の専門は理論を詰め込み過ぎて、柔軟な発想が出来ないということです。ですが、実際には知識を蓄えてマイナスになることなどありません。「何故マラソンを年に2回しかやらないのか」と聞かれるから、分かりやすく論理的に説明するだけで、ある程度経験を積んだ人ならだれでも、マラソンは「下手な鉄砲、数うちゃあたる」世界でないことは知っています。


マラソンでサブ10は日本人ではまだ100人ほどしかいません。そのうちの9割近くがサブ10回数は2回以下です。株で言えば、既に高値で今後ほぼ100%の確率で値下がりする株か、安値の株で今後爆発的に値上がりするかもしれない株しかない訳です。そういう事情を考えれば、慎重な準備をせずにレースに出る意味はあまり無く、結果的に年2回程度になるという訳です。


重ねて書いておきますが、42.195キロを走ること自体は別に体に特別に負担がかかるわけではありません。ただ単に「走りたいから」という理由で月に数本マラソンを走ることは何の問題もありませんので、心配せずにレースを楽しんでください。


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ランニング書籍

講師紹介
​ウェルビーイング株式会社代表取締役
池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

​ウェルビーイング株式会社副社長
らんラボ!代表
深澤 哲也

IMG_5423.JPG

経歴

中学 京都市立音羽中学校

高校 洛南高校

↓(競技引退)

大学 立命館大学(陸上はせず)

​↓

大学卒業後

一般企業に勤め、社内のランニング同好会に所属して年に数回リレーマラソンや駅伝を走るも、継続的なトレーニングはほとんどせず。

2020年、ウェルビーイング株式会社の設立をきっかけに約8年ぶりに市民ランナーとして走り始る。

感覚だけで走っていた競技者時代から一変、市民ランナーになってから学んだウェルビーイングのコンテンツでは、理論を先に理解してから体で実践する、というやり方を知る。始めは理解できるか不安を持ちつつも、驚くほど効率的に走力が伸びていくことを実感し、ランニングにおける理論の重要性を痛感。

現在は市民ランナーのランニングにおける目標達成、お悩み解決のための情報発信や、ジュニアコーチングで中学生ランナーも指導し、教え子は2年生で滋賀県の中学チャンピオンとなり、3年生では800mで全国大会にも出場。

 

実績

京都府高校駅伝区間賞

全日本琵琶湖クロカン8位入賞

高槻シティハーフマラソン

5kmの部優勝 など

~自己ベスト~

3,000m 8:42(2012)
5,000m 14:57(2012)
10,000m 32:24(2023)
ハーフマラソン 1:08:21(2024)

​マラソン 2:32:18(2024)

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