ただいま、LLLT(低出力レーザー療法)に関する連載をやっていますが、今回はジョギングというテーマで中休みをしてみたいと思います。あなたはジョギングという言葉の意味を考えたことはありますか?意外と考えたことがない人が多いのではないでしょうか?
あなたは「いや、ジョギングはジョギングでしょ?」と思うかもしれませんが、ジョギングは人によって使い方が全然違います。これは日本語と英語の違いといっても良いかもしれません。
あなたの周りにもジョギングにはトレーニング効果がないという人とジョギングが大切という人と二通りいないでしょうか?これは競技者レベルでも二通りいます。ではなぜ、ジョギングが大切という人と、ジョギングは無駄という人がいるのでしょうか?ちなみに私自身は色々なところで、ジョギングはトレーニング効果がないと言い続けています。ただ、実際には、ジョギングにはトレーニング効果がないというよりは、「もはやトレーニング効果がないほど、ゆっくり動く」のがジョギングというのが、私たちのトレーニンググループでの定義です。
そして、私たちのトレーニンググループに限らず、英語、ドイツ語のジョギングというのはこの意味で使われます。だから、ジョギングにトレーニング効果があるのかないのか、という議論さえナンセンスな訳です。今まで色々な国の人とトレーニングに関するディスカッションを交わしてきました。パッと思いつくだけでも、アメリカ、ドイツ、ノルウェー、オーストリア、イタリア、ケニア、フランス、ベルギー、オーストラリア、ニュージーランド、カナダといった国々の人達です。大抵は英語で話すのですが、例外なくジョギングというのはノロノロ走っているのが、ジョギングです。
ところが、日本語でのジョギングは違う意味です。和製英語といっても良いのですが、ジョグとか言いながら、3:30/kmで走ることもあります。逆の言い方をすると、ここまでジョギングの範疇に入れてしまう訳です。チームによっては、60分走と60分ジョグのようにある程度速く走る日とゆっくり走る日で、言葉を分けたり、15kmジョグのように距離で示す時にはある程度速く、60分ジョグのように時間で示す場合にはゆっくりでも良いのように暗黙の了解があるチームもあります。
あるいは同じ60分ジョグでも集団の時はだいたい4:00/kmくらい、各自ジョグの時はゆっくりでもOKのように暗黙の了解がある場合もあります。要するに、各チーム、用語の使い方や暗黙の了解が違うという訳です。こういった様々な状況の中でジョギングが大切とか、ジョギングはトレーニング効果がないと言っても、会話になっているようで実は会話が成立していない時が多々あります。この手の話を聞く時は話し手の文脈や背景によって適宜翻訳しながら、理解する必要があります。
また、一言で一キロ5分ペースといってもそれが意味するところは全然違います。例えば、競技者であれば、一キロ5分ペースは例外なく、ジョギングに該当し、基本的にトレーニング効果はほとんどありません。ただし、これがマラソンで3時間半の人であれば、マラソンレースペースです。負荷の高いトレーニングに分類されてしまいます。5:45/kのペースでもレースペースより一キロあたり45秒遅いだけのペースですから、持久走やペース走に分類されるでしょう。
とは言え、5:45/kはジョギングといえば、ジョギングと言えるような気もします。ただし、マラソンで3時間半切りを目指すような人にとって、このペースは大変価値のある、メインとなるべき練習なのです。このペースをジョギングと呼ぶなら、ジョギングにはトレーニング効果がないどころか、基本的にジョギングだけしておけば、速くなります。
この辺りも各自の目標やフィットネスレベルに置き換えて考える必要があります。競技者もしばらく休養をとっていて、走っていなかった場合であれば、5:00/kのペースでも充分に良い練習になります。走るということ自体に体が慣れていない状態なので、とにかく外に出て走って、ちょっとずつでも体の機能を戻していく必要があります。競技者ですら、ジョギングはトレーニング効果がないとは一概には言えない訳です。
更に言えば、厳密にここまではジョギングで、ここからはランニングと厳密に線引きできる訳でもありません。5:00/kと3:30/kは明らかに違いますが、じゃあ、4:20/kmはどうなんだとなるとかなり微妙なところです。疲労回復を目的としつつも有酸素刺激を若干加えるトレーニングと考えると、トレーニングなのかジョギングなのか、はっきりどちらかに分類することは難しいです。
また、トレーニングの目的によっても変わってきます。インターバルからの疲労回復が目的の持久走であれば、4:00/kは立派な持久走になるでしょう。ところが、せっかく30km走をするのに4:00/kではペースが遅すぎます。私自身もある女子選手から40kmを4:00/kで引っ張って欲しいと頼まれたことがありますが、はっきりと断りました。長い距離を走るのに、そんなにゆっくり走るのはナンセンスに思えたからです。要するに、練習なのか、疲労回復を主眼に置いた練習なのか、どっちつかずの練習で中途半端だからです。
トレーニングというのは鍛えるのと、回復させるのとその調和が絶妙に取れた時に上手くいきます。自分自身を振り返ってみても、上手くいかなかったレースでは大抵オーバートレーニングか故障が原因です。じゃあ結果が出た時は、楽な練習してたのかというとそんなことは一切ありません。時にはご飯も食べられなくなったり、便が血で染まるくらいの練習をして、それでも体が回復し、適応したから結果が出たのです。
長距離走は、こうすれば良いと断言できるようなものは一つもありません。全体を俯瞰して、その時、その時で目的意識を明確にして、取り組むことが重要です。そのため、他人の話を聞く時は、常にその文脈や背景を意識しながら、聞く必要があります。
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目次
抗酸化と抗炎症とフリーラディカルについて6
健康的な油とそうでない油15
グリセッミクスインデックス18
LLLT (Low Level Laser Therapy) 21
日本的なあまりにも日本的なメンタリティとケニア的なメンタリティ26
アンチエイジング低 GI ココアケーキ 29
痛みと心の連関33
自信は過去ではなく未来から来る36
心理的盲点と先入観からの解放41
プラセボ効果―心はいかにして体に作用するのか?45
夢を心で現実に48
音楽瞑想50
潜在意識とは?54
ポテトの栄養と長距離ランナー60
ケニア人マラソン選手の生活―キンビアトレーニングキャンプから64
アキレス腱障害の種類と対処法70
スポーツに謙虚さはいらない73
ケニア人彼らは何故速いのか?ハングリー精神?77
アドルフ・アイヒマンと高い集中力を発揮するための自己責任の話82
ベリー 天然のサプリメント87
足底筋膜炎89
マラソンと自我91
瞑想とリカバリー96
反ストイシズムとやる気を引き出す方法99
書籍出版のご案内102
マラソンレース当日の朝食の意味106
努力をするとやる気をなくす方法110
マラソンと洗脳113
間違った減量法―カロリーと脂肪が少なければ少ないほど良いの間違い119
マラソントレーニングのアンチノミー122
スピード1、2、3 128
マラソントレーニングと情報場132
異なる観点から見た休養の重要性136
高地トレーニングの重要性と効果139
理想のランニングスタイル141
故障との付き合い方143
マラソン界の洗脳148
数学好きのためのマラソントレーニング153
心肺機能にも超回復の考え方は適用されうるのか?156
睡眠と意志の力と減量159
ランナーが犯しがちな2つの過ち162
パイナップルの抗炎症能力165
もっとも健康的な飲料は何か?166
ナチュラルパワードリンク 緑茶169
若くして燃え尽きる選手がいる?171
ケトン食が故障を治す174
赤ワインは健康に良いのか?177
ストレッチの真実179
プロロセラピー181
慢性的な足底筋膜炎の治療法184
世界一くだらない方法で世界一重要なことを学ぶ方法189
持久系競技者と鉄分補給191
セルフエフィカシーとセルフエスティームの違い194
再生不良性貧血197
慢性的な痛みへの対処法200
慢性的な故障のメカニズム203
慢性的な痛みへの軟部組織へのアプローチ206
超音波と LLLT212
レバレッジ効果215
慢性的な痛みのためのサプリメント220
最強の抗酸化物質は何?223
ストレスマネジメント NRF1、NRF2 225
細胞とミトコンドリアとクエン酸回路の話230
迷ったら中山さんを目指せば良い237
ハーフマラソンを63分09秒で走った無名国立大学生の話243
GMO 地帯のゴッドハンド253
風雲の奇跡―ツキと運に関する考察260
レナト・カノーヴァから学ぶマラソントレーニング264
ブラッド・ハドソンから学ぶ長距離走トレーニング271
菊と靴279
マラソントレーニングにおける全体最適と部分最適285
アーサー・リディアードから学ぶ選手と指導者の関係性291
アーサー・リディアードのトレーニングシステム298
遅いペースのインターバルで速くなる理由 307
球数制限とメタメッセージ311
慢性的な痛みの消し方315
ディーター・ホーゲン率いる多国籍軍324
長距離走・マラソンが速くなりたいあなたへ329
ウォール・ストリートの狼から学ぶ心理的テクニック338
前日刺激は何のためにある?344
LLLT のメカニズムとはどのようなものか?347
LLLT の効果その1脂肪燃焼効果353
LLLT の効果その 2 怪我の治癒促進354
LLLT の効果その 3 骨密度の増大355
LLLT の効果その 4 男性ホルモンの増大356
LLLT の効果その 5 認知機能の向上358
LLLT の効果その 6 鬱の緩和359
LLLT の効果その 7 ニキビの消失361
LLLT の効果その 8 鎮痛362
LLLT の効果その 9 育毛効果363
LLLT の効果その 10 関節炎の治癒促進365
LLLT に関するよくある質問366
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