こんにちは、ウェルビーイング池上です。
前回の「最大酸素摂取量から考える上半身のリラックスの重要性」の記事はもうご覧いただけましたか?まだご覧いただいていない方は下記のURLよりご覧ください。
今回はその記事の続きでじゃあ上半身をリラックスして使うにはどうすれば良いのかということです。今回は何名かのトップランナーを参考に考えていきたいのですが、まず初めに忍者走りのネーミングで有名なワコールの安藤友香さんから見ていきたいと思います。先ずそもそも忍者走りってどんなもんやと気になる方も多いと思うので、下に動画を貼らせて頂きます。
安藤さんの走りはこのようにだらんとした腕振りで初マラソンを2時間21分36秒で走るという快挙を見せて一躍有名になりました。その時はスズキ浜松アスリートクラブで、一緒にロンドンの世界選手権代表を決めた清田真央さんとともに有名になりました。その清田さんも腕を低い位置で振るタイプの選手で、当時のスズキの女子の指導にあたっておられた里内正幸さんが指導したら、全員ああいう腕振りになるのかと一部では思われたこともあったようなのですが、里内さん曰はく「あれはたまたま清田も安藤もああいう走りがはまると思っただけで、他の選手もあれを真似したら上手くいくかというとそうじゃない」とのことでした。
里内さんも腕の位置を低く振れとは一言も言っておらず、振り子のように使いなさいと言っただけだそうです。ちなみにですが、アフリカ勢が台頭する前の長距離選手は腕を低い位置で振る選手が多かったんです。何故かというと、基本的には腕を低い位置で振った方がリラックスしやすいと考える人が多かったからです。1500mで活躍したハーブ・エリオットやピーター・スネル選手も腕の位置は比較的低いです。
ハーブ・エリオット(シンダートラックでの3分35秒はヤバい)
ピーター・スネル(こちらも同様シンダートラックで800m1分45秒と3分38秒)
現在はSGホールディングスの川端一都選手の腕振りが非常に低いです。川端選手は同じ京都府の綾部高校出身で私の二つ上、一年生ながら京都府高校駅伝では4区を任され、私と同じ区間を走りました。その時は彼もまだ一年生、さすがに負けることはなく私は3年連続京都府駅伝の区間賞を獲りましたが、すっかり彼も出世頭になりました。
話を元に戻し、腕振りを振り子のように使うのはどういうことかということですが、これは単純な話で、仮に真空状態が存在したとすれば、振り子は位置エネルギーを運動エネルギーへ、運動エネルギーを位置エネルギーへと変換し続けるので、永遠に動き続けます。この現象世界においては、空気抵抗や振り子の支点とひもの間に摩擦が生じるので、振り子は次第に動きを止めますが、理論的にはこの空気抵抗の分と摩擦の分の力だけを入れて、後は基本的に位置エネルギーを運動エネルギーへ、運動エネルギーを位置エネルギーへと変換し続ければ、楽に腕を振り続けることが出来るという訳です。
私も基本的にはこの考え方に賛成です。私の走りにはあっています。
ですが、ここにもう一つの視点が必要です。それは走りには縦の動きだけではなく、横の動きがあるということです。振り子は完全に縦の動きですが、それとは別に横向きの動きがあります。体の使い方には色々な使い方があり、ある武道家に言わせれば、ひねりを使うような動きは遅いとのことでした。そして、遅いということはパワーが弱いということであり、体をひねる必要はないとのことです。
でも、私はこの考えには賛成できません。それはあまりにも極端な偏った見方だともいえるし、単に私の体の使い方が未熟でそういう動きが出来ないという二つの意味から賛成できないのですが、野球でもゴルフでも、やり投げでも横方向の体のひねりを使うことで大きなパワーを生み出しています。
昔ロッテ、中日、巨人で活躍した前田幸長という投手がいました。前田幸長さんを知っている人なら、パッと思いつくのがナックルカーブとスーパークイックです。野球では、走者に盗塁を許さないために速い投球動作で投げるクイックモーションというのがあります。ただ、投手というのはある程度足を上げて体をひねることで強いボールを投げているので、クイックモーションが上手くできないと球速や球威が落ちます。
ところが、この前田投手はクイックモーションでも球速が落ちないのです。こちらが実際の映像です。
このスーパークイックの極意は素早く体をひねってその力を使って投げることだそうです。脚はほとんど上げない代わりに横方向のひねりは最大限に使って投げることだそうです。考えてみれば、砲丸投げも体を90度しか回転させない立ち投げと体を180度回転させたり、360度回転して投げる投げ方では飛距離が変わります。
9㎝の差が分ける1流と2流の記事でも書きましたが、わずかなストライドの差でタイムが大きく変わる長距離走では横の動きも若干使うべきです。ただ、この時左右均等にひねられるのが理想なので、相対的には真っすぐに見えます。これは左右均等にひねられるのであって、横にぶれながら走るのとは全く違います。
トップランナーで横の動きを綺麗に使っているのが、藤原新さん、瀬古利彦さん、高橋尚子さんだと思います。
藤原新さん
瀬古利彦さん
高橋尚子さん
このお三方の走りはよく見ると、腕を8の字に回していることに気づかれると思います。こぶしがまっすぐに前に来るのではなく、やや外方向に開くように前に出て、そこから体の中心に引き戻しながら、同時に内側に入ります、そして、肘が斜め外の後方にひかれて、そのひじがやや内側に入りながら、こぶしが外側へと開きながら前方へと移動していきます。
このようにして、下半身のひねり(骨盤のひねり)と腕振りを連動しながら、腕を回すように振ることでリラックスして振ることが可能になります。何故かというと、この時腕は振っているのではなく、振られているからです。走ると骨盤が回旋します。そして、まっすぐ前に進むためには下半身と上半身のひねりの間でバランスがとられていないといけないので、下半身(骨盤)が回旋すると肩甲骨も回旋します。これは意識的に回旋するのではなく、バランスをとるために勝手にこうなるのです。そうすると、ある程度力を抜けば腕が勝手に振られます。
あとは腕の位置が下がりすぎないように軽く力を入れるだけです。
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