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マラソンは時間がかかる競技である理由


前回の記事でアンヤ・シェール選手を取り上げた際に、最後にマラソンは時間がかかる競技であることを述べました。時間がかかるというのは2時間もかかるという意味ではありません。30歳前後にならなければ、その人の能力の限界点に到達するのは難しいということです。20代前半で生涯ベストを出す人もいますが、そこがその人の限界ではなかった可能性が非常に高いと考えています。その理由を以下に述べていきたいと思います。

各種目の決定因子

各種目にはそれぞれ最も重要な生理学的な決定因子があります。その競技能力を決定づける主要な要素と言い換えても構いません。ここでは詳しい解説は省きますが、5000m走において最も重要な決定因子は最大酸素摂取量、10000m走・ハーフマラソンにおいては乳酸性閾値が最も重要な決定因子となります。最も重要な決定因子というのはそれだけでその種目の競技能力が決まるという意味ではありません。5000m走においても乳酸性閾値が重要になりますし、逆に10000m走とハーフマラソンにおいても最大酸素摂取量は重要になります。他にはメンタリティも重要になりますし、ピーキング能力も重要になります。最も重要な決定因子というのは、それだけでその種目の競技能力が決まるという意味ではなく、その種目の競技能力を最も大きく左右する要素のことです。


ハーフマラソン以下の距離のレースとマラソンレースで最も大きく異なる競技能力の決定因子は、脂肪の有気的代謝の代謝速度です。よくマラソンレース後半に失速する選手がいると、グリコーゲンが切れたという人がいます。これはよほどのことがない限り(失神するなど)、文字通りグリコーゲンが枯渇したわけではありません。厳密に言えば、グリコーゲンの貯蔵量が減少したために、代謝システムを少し変える必要が出てきたのです。人間のエネルギー代謝には次の4種類があります:


1.クレアチンリン酸系

2.無気的解糖系

3.有気的解糖系

4.有気的脂肪分解系


 よく勘違いしている人がいるのは、どれか一つの代謝経路のみを使用していると考えている人です。例えば、100m走はクレアチンリン酸系回路のみでエネルギー代謝を行っていると考えている人がいます。若しくは、400m走においては、前半は有気的代謝によってのみエネルギー供給を行い、後半は無気的解糖系のみでエネルギーを供給していると考えている人もいますが、これも誤りで人間は常にハイブリッド式で、エネルギー供給をしています。安静時は約70%を有気的脂肪分解系、残りの30%を有気的解糖系でエネルギーを供給しています。ジョギングから持久走とだんだんと運動強度を上げていくと徐々に有機的解糖系の割合が大きくなり、10000mのレースペースくらいの強度では有気的代謝だけではエネルギーの供給が追い付かないので無気的解糖系の代謝も活発になります。そして、スプリント種目になると、クレアチンリン酸系回路を使うようになります。


 ハーフマラソンのレースペースでマラソンを走り切ることが出来ないのは、そのペースで走ると有気的解糖系の代謝を使いすぎるため、途中で糖が減ってしまうからです。そのため、途中で体は脂肪分解系の代謝を多く使うようになりますが、脂肪分解系の代謝速度は、有気的解糖系の代謝経路に比べると代謝速度が遅いためペースを落とす必要が出ます。これが、マラソン終盤のペースダウンです。

 さて、ここで下の表(1994年マクアードレ その他 修正へバート・シュテファニー)を見ていただきたいと思います。

          出典:Das große Laufbuch Herbert Stefany著)