top of page

レース前最後の2週間

更新日:2022年9月19日

 世界中には様々な選手、様々な指導者がいますが、かなり共通した意見はレース前 2 週間で競技力が向上することはないということです。確かに、4 週間前や 3 週間前の段階では、超回復の方が優先順位は高かったとしても、若干の競技能力の向上は見込めるでしょうし、あまりにも練習を軽くしすぎると、走力の低下もあり得る段階です。しかし、最後の 2 週間を切ったら、何をどうあがいてもここからの競技能力の向上はありえないというのが、多くの選手と指導者の意見が一致するところです。


 では、走力が低下しないという方はどうでしょうか?私にはそれを裏付ける経験があります。2018 年の大阪マラソンの前の話です。そのシーズン私は夏場に徹底してクロカンとファルトレクしかしないという基礎構築に重点をおいた練習に取り組み、その後は徐々にレースに近い刺激を入れていくと、驚くほど体が適応していきました。しっかりと土台を作っていたので、スポンジが水を吸うように適応していきましたし、土台がしっかりしていると疲労感もそれほどなく練習が継続できます。


 実際に私は 2 時間 10 分切りに自信を募らせていきました。少なくとも当時の大会記録の2時間 11 分 48 秒は切って優勝できるだろうと感じていました。しかし、私は 2 週間前に練習の一環として出場した日体大記録会 10000m で故障してしまいました。レース自体はなんの問題もなく、予定通り 1 キロ 3 分を少し切るペースを体に覚えさせるために、無理をせずたんたんとペースを刻んでいました。もともとの持ちタイムが遅かったこともあり、組の中で断トツの先頭を走っていました。


 ところが、最後の 2 周にさしかかったところで、鋭い痛みを感じました。一瞬やばいなと思いましたが、すぐに痛みは消えました。いや、消したといった方が良いのかもしれません。そのまま、最後の 1 周を 65 秒で上がると、29 分 26 秒の自己ベストでレースを終えました。終わるとダウンジョグだけでも痛みがしてきます。私は徐々に不安になってきました。次の日も歩くだけでも痛かったのですが、20 キロ走を言い渡されていました。走ってみると、思ったよりも痛くはありませんでした。しかし、走り終わると激痛でまともに歩けなくなりました。


 大事を取って 2 日ほど走るのをやめようと思いましたが、そのあとも痛みがひきません。私はロードバイクでクロストレーニングをしているだけでした。日に日に不安は募り、不安が絶望へと変わっていきます。毎日一人で泣いては、最後まで希望を捨てずに気持ちを奮い立たせているうちに、レースの 5 日前になりました。この時点で私は 8 日間も走っていませんでした。相変わらず足には激痛がありました。しかし、これ以上走れなければどうせレースでは走れないのです。この時点で私の数か月間の努力が水の泡になることはほぼ確定していました。


 ここまで来て私は開き直ることが出来ました。どうせ無理ならいけるところまで行ってやろうと思いました。5 日前に激痛に耐えながら、足を引きずるようにして 8 キロジョギングをしました。交感神経と副交感神経のメカニズムに沿って、この時は走らなかったせいでかえって副交感神経優位になり、痛みが強くなっていたのかもしれません。


 痛かったのですが、次の日も悪化しているということはなく、寧ろ同じ痛みながら、もっと走れるようになっていました。次の日は 16 キロを 1 キロ 5 分ペースから 3 分 20 秒くらいまであげてみました。この時点で 4 日前です。とにかく、無理だろうなとは思いながらも私は埼玉県から実家の京都に移動し、そこで中学時代からお世話になってい る治療家の方のところに行きました。どうせ、大阪に移動するので近くにいくにこしたことはありません。


 そこで、治療もして頂き、3 日前に 10 キロを中強度から高強度でやると 1キロ 3 分 40 秒から 2 分 58 秒で走ることが出来ました。この時点で、試合に出ないという選択肢はなくなりました。どこまで足がもつかは分かりませんが、とりあえずレースペースでは走れることが判明したわけです。私は意を決してスタートラインに立つことにしました。


 ロキソニンを最大量摂取しましたが、そんなことで収まるような痛みではありません。 試合当日はウォーミングアップの時点で痛みがありました。足が腫れあがり関節の可動範囲が著しく狭くなり、ちょっと人が出てきたのを避けようとしただけで転倒してしまうほどでした。しかし、とにかく私はスタートラインに立ちました。