秀志 池上

2022年5月17日11 分

ハーフマラソン63分09秒で走った国立大学帰宅部生が語るセルフコーチングの極意2

最終更新: 2022年5月24日

皆さん、こんにちは!

 昨日公開させて頂いた無料ブログ「ハーフマラソン63分09秒で走った国立大学帰宅部生が語るセルフコーチングの極意1」はもうご覧いただけましたでしょうか?

 まだお読みになられていない方は、先ずはこちらをクリックして第一部の方をご覧くださ

い。

 昨日のブログでは練習計画の立て方について解説させて頂いたのですが、ではあのやり方で、練習計画を立てれれば一発で自分に合った練習計画が立てられるのでしょうか?

 実はそうではありません。一度計画を立てて、振り返って、修正し、再度計画を立てて実行するというPDCAサイクルを回していくことが重要なのです。

 実は長距離走・マラソントレーニングが難しいのはこのPDCAサイクルにあります。PDCAサイクルは陸上競技の用語でもなんでもなくてPlan、Do、Check、Actionの頭文字をとったもので、計画、実行、確認、実行のことです。

 要するに、とりあえず計画を立てて実行してみる、そして実行してみてそれを確認し、計画を立て直して更に実行していくというこのサイクルです。これはサイクルなので、永遠に終わりがありません。会社ならその会社がなくなるまでずっとこのPDCAサイクルを回していきます。このPDCAサイクルを回していくのに、実は長距離走・マラソントレーニングの特異性が表れてきます。というのはこのPDCAサイクルの期間が長いのです。

 長距離走・マラソントレーニングというのは、このサイクルが3か月から半年です。高校生を指導するなら、トラックシーズンはインターハイを頂点におき、7月終わりまでが一つ目の頂点です。それから、駅伝シーズンは12月終わりの全国高校駅伝がピークです。普通の地元の高校生を指導する場合にはとりあえず、京都府インターハイと京都府高校駅伝に2つのピークを持ってくるでしょう。

 そうすると、12月から来年の京都府インターハイに向けた準備期間が始まり、7月から京都府インターハイに向けた準備が始まります。そして、日本の場合は四季がありますから、季節に合わせたトレーニングを組んだ方が上手くいきます。このように考えると、PDCAサイクルを半年ごとくらいにしか回せないのです。

 半年くらいのサイクルでしかPDCAサイクルを回せないということは、その間何かおかしいところがあっても半年間は分からないということです。そもそもの話ですが、計画というのは少なくともその段階では完璧だと思って立てる訳です。

 上手くいかないと思って立てる計画などありません。しかし、完璧だと思って立てた計画でも上手くいかないところはあるものです。これは人間のやることですから、当然です。また、人間の体というのはその時々で変わっていきます。その変わる体に対して対応しながら、その時々で練習を考えないといけません。必ず、どこかで完璧にはいかないものなのです。

 しかし、PDCAサイクルを半年に一回しか回さないと修正を図るのも半年に一回ということになります。これが長距離走・マラソンは時間がかかる最も大きな理由です。ビジネスの場合は、そうでもありません。もっと速くPDCAサイクルを回すことが出来ます。SNS広告などは一週間出して反応を見て少し変える、また一週間出して反応を見て少し変えるということが出来ます。失敗を恐れてはいけません。どんどん小さな失敗をしてその都度、新しい失敗をすれば良いのです。そうすれば、長期目線で見れば会社はどんどん大きくなっていきます。

 だったら、長距離走・マラソンもそのくらいのショートスパンで小さなサイクルをどんどん回していけば良いじゃないかと思われるかもしれませんが、そうは問屋がおろしません。何故かというと、長距離走・マラソンというのは1週間では何も変わらないからです。1週間練習したからと言って何かが変わるわけではありません。

 企業なら1週間やれば、見込み客が何人獲得できたとか商品がどのくらい売れたとか数字は小さくても明確な数字が出ます。ただ、長距離走・マラソンは1週間やったところで何の数字も出ません。変化は出ないのです。ですから、PDCAサイクルを回すことが出来ないのです。

 では、1か月くらいの単位ならどうでしょうか?

 一応できます。1か月くらいトレーニングすれば体も変わってきますし、進むべき方向がこれで合っているのかどうかということは分かってきます。しかし、これも全体的に見ればPDCAサイクルをきちんと回せません。

 というのは、長距離走・マラソントレーニングというのは年間通して様々なトレーニングの時期を組み合わせるからです。このあたりが行き当たりばったりでは上手くいかない理由の大きな一つです。長距離走・マラソントレーニングは結局目標とするレースにおいて目標とするレースペースで走り切るための適応を体に引き起こさせることです。

 ここには4つの要素があって、1つ目はレースの日付です。狙った日にというところが重要です。2つ目は、レースの距離です。3つ目は目標とするレースペースです。4つ目は、上記3つの要素を満たすための適応を引き起こすということです。そして、これら4つの目的をなるべく高いレベルで達成しようと思うと、やっぱり色々なトレーニングの時期が必要なのです。

 長距離走・マラソントレーニングにおいては、量も必要です。質も必要です。でも量も質も両方追うのは無理です。基礎的な練習も大切です。実戦的な練習も大切です。でもこの両方を同時に追うのは無理です。高いレベルに到達するためには鍛えることも大切です。そして、ある程度フレッシュな状態で良い練習をすることも大切です。しかし、この二つもやはり両立しえません。そうなってくると、それぞれの時期でそれぞれの要素に重点をおいたトレーニングが必要になってきます。

 そうなってくると、だいたい1か月から2か月くらい1つの要素に重点をおいてトレーニングをすると、成果が出てきます。そして、成果が出たらそのままPDCAサイクルを回すのではなく、次の期分けに行くのです。大まかにですが、私が地元の普通の高校生を指導するなら、下記のようなスケジュールを組みます。

1月-2月:基礎中の基礎練習(練習強度高め)

 中強度の持久走を中心に練習を組み、芝生や不整地でのファルトレク、登板走(200mから400mの繰り返し)、クロカン走、登板走(持久走)、走る以外のトレーニング(球技や体幹補強)、坂ダッシュ、バウンディングなどなど

 駅伝やロードレースに出ても良いがそのための準備はしない

3月:基礎練習(練習強度高め)

 ショートインターバルの導入、高強度の持久走の導入、記録会などにも少しずつ出場を検討する。ロードレースや駅伝もあり。

4月:移行期(練習強度落とし始める)

 記録会や大会が始まっていくので、これらを上手く練習として使っていく。練習においてもレースを意識した実戦的な練習を入れていく

例 5000m

1000m5本、1600m3本、2000m2本+1000m、3000m+1000metc

1500m

800m+600m+400m+200m、800m5本(800mつなぎ)、

1200m+800m+400m+200metc

800m

200m5本を2セットから3セット

400m2本を2セットetc

5月:試合期(練習強度低め)

 先ずはゴールデンウイークの市内インターハイで何がなんでも京都府インターハイの出場権を獲得する。ただし、ここにピークは持ってこない。練習がてら出場して、京都府インターハイに進めないようであれば、諦めてもらうより仕方なし。

 練習内容は4月とほぼ同じであるが、5月下旬はもう疲労を抜いていき、京都府インターハイにピークを持っていく。

6月:試合期(練習強度低め)

 京都府インターハイで一度ピークを持っていった後は、上手く状態を維持しながら近畿インターハイへとさらに状態を上げるように練習を組む。近畿に進めなかった部員には記録会を用意し、引き続き良い状態を維持させて記録を狙う。

7月:試合期+休養期(練習強度低め)

 7月上旬の京都選手権までを試合期ととらえて勝負の場を設ける。京都府インターハイからここまでが約6週間、6週間くらいであればピークの状態を維持できるはず。京都選手権が終われば一度休養期間を設ける。この期間は部員に任せる

8月:基礎練習期(練習強度高め)

 1週間ほどリフレッシュしてもらい、7月後半から鍛錬期に入る。伝統的なやり方は夏場に走り込みをさせて駅伝シーズンに持っていくが、私は夏場に徹底的な基礎スピードを養わせたい。夏は高いところに上がって合宿を組むのが強豪校の通例であるが、親御さんへの金銭的な負担が大きくなるので、夏合宿は実施せずに、暑いところでレペティショントレーニングに取り組ませたい。

 また質を追わない基礎的な持久練習であれば、早朝や夕方の練習で充分に出来る。なので、山道や木陰の多いクロカンコースなどを探し、基礎持久と基礎スピードの養成に取り組ませたい。あとは飽きないように1000mなどのタイムトライアルなどを定期的に入れていく。

9月:移行期(練習強度中強度)

 京都選手権が終わってから9月に入るまでで約6週間、このくらいの間隔であれば、夏場に全く実戦的な練習を入れなくてもすぐに体は戻る。なお8月にある京都ユースは完全に無視をする。部員全員が京都予選で落ちても気にはならない。もちろん、上位に入賞してくれればそれに越したことはない。

 9月の練習の主眼は駅伝でのレースペースになれてもらうことと、ある程度の距離を続けて高強度で走ることになれてもらうこと。1キロ3分5秒くらいのペースで走れる距離と休息にインターバルを設定し、テンポ走ではある程度高強度(追い込みもしないけれど、充分キツイペース、おそらく1キロ3分半くらい)で休憩なしで走り続けてもらう。

 レペティショントレーニングで培ったスピードを如何にして駅伝用に変換してもらうか

10月:試合期(練習強度低め)

 10月に入ると京都府高校駅伝まで一か月しかない。出来れば、駅伝に出て実戦的な感覚を養ってほしいが、駅伝はそう多くはない。夏合宿を実施しない代わりに、遠征してでも駅伝を一本走らせてもらいたいところではある。

 いずれにしても、やることは同じで駅伝で走れるだけの実戦的な練習が中心。駅伝の場合は、走力をつけるだけではなくペース感覚を養うことも重要になる。ロードでの練習でペース感覚を養わせたいところ

11月:試合期(練習強度低め)

 京都府高校駅伝に先ずはピークを合わせ、なんとしても近畿には進んでもらう。そのあと2週間後の近畿高校駅伝まではピークを維持するような練習を組み、補欠の選手にはタイムトライアルを実施するなどしてチャンスを与えたい。

 近畿高校駅伝の後も12月上旬くらいまでは調子が上がる選手もいるはずなので、記録会などに出場して、記録を狙わせたい

12月:試合期+休養期

 12月はなるべくタイムが出そうな記録会を探して出場させる。場合によってはペースメーカーを呼んでタイムトライアルを実施しても良いと思う。あるいはチームの中心選手にペースメーカーをお願いして、他の部員にタイムを狙わせるのも良し。

 最後の記録会が終われば、12月いっぱいまでは休養期間とする。のんびりと各自で過ごしてもらえればそれで良い。

 だいたいこういう流れになります。これを見て頂くとお分かりいただけますように、1月2月の練習はだいたい同じですが、そのあと3月に入ると練習内容が変わり、4月になるとまた変わり、5月に入るとまた練習が変わり、6月、7月でまた主眼が変わりと練習は変わり続けるのです。これは行き当たりばったりなのではありません。非常に構造的で、良く作られた理に適った練習のやり方なのです。

 寧ろこういった期分けを作らずに年がら年中同じような練習をしている方がただ漠然とした練習と言えるでしょう。このように、練習というのは変わっていくものなので、PDCAサイクルを短いスパンで回すことは出来ないのです。実際には半年間何も軌道修正しないということはありません。細かい軌道修正は図っていくのですが、あくまでも半年で1つのPDCAサイクルなのです。

 この辺りは正直表現は難しいです。じゃあ細かい軌道修正とPDCAサイクルはどう違うのだと思われる方もいらっしゃると思います。強いて言えば、答えが出ているか出ていないかの違いです。陸上競技というのは最終的に狙ったレースでの結果が全てなのです。高校生の場合ならインターハイと駅伝が全てと言っても過言ではありません。そこでの答えが出ていない以上は、PDCAサイクルを回すわけにはいかないのです。

 例えば、基礎練習ばかりしていれば、レースに出てもおそらく結果はでないでしょう。また、ハードな練習をしている時期は、レースに出ても望むような結果は出ないでしょう。

 しかし、狙ったレースで最高の結果を得るにはそういった時期も必要なのです。それにもかかわらず、ここでPDCAサイクルを回して、結果が悪いから計画を修正しようということになるとおかしなことになります。これこそが、行き当たりばったりの練習というやつです。やはり腰を据えて取り組まないと大きな成果は出ません。

 では、全く計画、実行、確認、実行というサイクルを回さないのかというとそういう訳ではなくて、やはりある程度は選手を見ながら修正していきます。

 実はここまでは、拙著『セルフコーチングの極意』の18万字の中のほんの一部です。『セルフコーチングの極意』は5月20日より200部限定で販売しています。

 本書は日々一人でトレーニングを行う市民ランナーに最も求められるセルフコーチングのスキルを高めるための指南書となっています。自身のトレーニングの組み方はもちろん、レースが終わってから次のレースまで、何を判断基準にどのようにトレーニングを振り返って評価をするのか、そしてそこからどのように修正するのかという考え方や理論を、私自身の経験や、これまで数百人の市民ランナーを指導させていただいた経験も踏まえて解説しています。

 販売3日で早速100部近くが無くなり、いつまで在庫が残るか読めない状況です。書籍の冒頭部分を公開していますので、品切れになる前に今すぐにこちらをクリックして詳細をご確認ください。


 

 

 

 

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